◆□◆   ビースト・ファイヤ!!  ◆□◆ 03


「んふふふ。でも、アナタも所詮は男ね。こんな顔ひとつで見る目が変わるだなんてぇ〜〜〜」
 顔だけじゃないだろう。見た目、全部変わってるだろう、お前は・・・。
 でも、とりあえず話を合わせておく。
 やはり、笑みを作りながら、コクコクと何度も頷き続ける。
「いや、ははは。全くです」
「って、アタシが魅力的なだけかしらぁんっ??」
「はい、その通りです」
「そうそうそう〜〜〜?? やっぱりぃ? 実はアタシもそう思っていたのよぉ〜〜♪」
「ええ、私も、もちろん、そう思います」
「やぁ〜〜〜んっ!! 嬉しぃ〜〜っっ!!」
「いや、本当にお美しいですから・・・」
 にこやかに話を合わせる。有閑マダムに媚びを売る、青年家庭教師になった気分だ。
「やんやんやんっ!! アタシ達ってぇ、気が合いそ〜〜ねぇ〜〜〜??」
「ええ、そうですね・・・って、ぐえっ!?」
 適当に相槌を打っていたら、いきなりジンに抱き付かれて、セイロは思いっきりつんのめった。
「いてて・・・。ちょっと、何を・・・?」
 立ちたいが、上に乗っかってるジンの所為で立てない。
 しかも、後頭部強打だ。最悪である。
「んふふふふ〜〜〜・・・v 決めちゃった」
「え? え? 何をですか?」
 間近で、微笑む、本当に妖艶に見える顔。
 退いて欲しいが、言って退いてくれる相手ではない。
 それにしても、この状況はどうにかならないのだろうか。
 心臓の鼓動が止まらない。・・・いや、止まったら止まったで、ヤバイことになるが・・・。
 激しさを増すばかりだ。
 身近にある美少女(だと思い込むしかないだろう)の顔が、瞳が、自分に注がれているのだ。
 ときめかなくては、男とは言えんだろう。
「あの・・・?」
「んふふ。あのね、アタシ、アナタが気に入っちゃったv」
「は、はあっ・・・」
 何もこんな至近距離でそんな事を、嬉しそうに告げなくてもいいだろうに。
「んふふ〜。だからぁ。こ・れ・か・ら・は、よろしくねv」
「え?」
 なんのことですか?
 心の中で問おうとした問いは、次の瞬間、見事なまでに凍り付いた。
「しばらくアナタと一緒にいることに決めたの」
「え、ええっ!?」
 擦り寄ってくるジンをほったらかしにするほど、その言葉はセイロにとって衝撃的だった・・・。
 今のセイロの頭の中は、衝撃だけで何もない、真っ白な状態になった。
 そこに響く、甘いというには少し清清しいジンの声。
「だって、アタシ、あなたが気に入っちゃったんだもんv いいでしょ?」
 いいわけない。
 その答えは心の中でしか、言えなかったが・・・。
 こうして、ひょんなことから”憧れ”の”ジン”から取り付かれ、逃亡生活(?)を送ることとなった不幸な青年セイロの旅が始まったそうな・・・。


 ◆本日の日記◆
 不幸はある日突然やってくるものだと、思い知りました。
 どこに潜んでいるのか、見極めるのは大変なことですが、僕はそれを今度から必死になって見極めようと思います。どんなに大変でも、不幸にむざむざと突き進んでいくよりはマシだと思ったからです。
 それを如何に上手く回避できるかで、人生というものは、大変変わるものだと信じています。
 最後に、上手く不幸から逃れることが、最重要事項だと確信しました。
 僕は、これから不幸から逃げる事だけを必ず真っ先に考えて、生きていこうと思います。
 僕はもう、自分の人生を棒に振った気がしてならない生活なんて、二度と味わいたくないのです・・・。

                                         ――セイロ・カミュンス


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